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名古屋地方裁判所 昭和44年(行ウ)4号 判決

名古屋市昭和区石仏町一丁目七八番地

原告

脇田勝重

右訴訟代理人弁護士

佐治良三

服部豊

水野正信

右佐治復代理人弁護士

楠田堯爾

水口敞

服部優

名古屋市瑞穂区瑞穂町藤塚

被告

昭和税務署長

竹内正禮

右指定代理人

青木恒雄

小柳津一成

法務大臣指定代理人

服部勝彦

荒川登美雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

一、被告が原告に対し昭和四二年九月二五日付でした、原告の昭和三七年分所得税につき総所得金額を金三四一万七、九三七円るする更正処分および重加算税金二五万八、〇〇〇円の賦課決定、昭和三八年分の所得税につき総所得金額を金一八八万九、八二七円とする更正処分および重加算税金一〇万五、〇〇〇円の賦課決定(但し裁決により一部取消された後のもの)はいずれも取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨。

第二、当事者の主張

(原告の請求原因および処分の違法性の指摘)

一、請求原因

(一) 原告は被告に対し、昭和三七年分および昭和三八年分各所得税につき、それぞれ法定期限内に別表確定申告額欄記載のとおりの確定申告をした。

(二) 原告は被告に対し、昭和四一年八月一六日、右各年分の所得税につき、別表修正申告額欄記載のとおりの修正申告をした。

(三) 被告は、右各修正申告に対し別表被告処分額欄記載のとおりの更正処分および重加算税の賦課決定をして、昭和四二年九月二五日付でその旨原告に通知した。

(四) 原告は被告に対し昭和四二年一〇月二四日右各処分について異議申立をしたが、被告はいずれもこれを棄却し同四三年一月二三日付でその旨原告に通知した。

(五) 原告は名古屋国税局長に対し昭和四三年二月二二日右各処分について審査請求をしたところ、同国税局長は、別表裁決額欄記載のとおり昭和三八年分の所得税についての更正決定および重加算税の賦課決定の一部を取消し、その余は棄却する裁決をし、同四二年一一月二七日付でその旨原告に通知した。

二、処分の違法性の指摘

(一) 原告は、導入預金の預入れの謝礼等として、昭和三七年に三〇〇万七、二四〇円を、同二八年に一四三万五、二〇〇円をそれぞれ受領した事実はなく、この点において本件各更正処分(但し昭和二八年分については裁決により一部取消された後のもの)は違法である。

(二) 原告は係争各年分の所得税の計算の基礎となるべき事実を隠蔽しまたは仮装した事実はなく、この点において本件各重加算税の賦課決定(但し、昭和三八年分について裁決により一部取消された後のもの)は違法である。

(請求原因に対する被告の認否)

請求原因事実(一)ないし(五)は全部認める。

(原告指摘の処分の違法性に対する被告の主張)

一、導入預金の預入れの謝礼等の認定について

(一) 昭和三七年分 三〇〇万七、三四〇円((1)+(2))

(1) 原告は、昭和三七年二月五日、加茂兎自動車株式会社社長加藤政幸(当時)に対して二〇〇万円を貸付けその利息(二ケ月分)等として一六万五、三四〇円を受領した。

(2) 原告は、昭和二七年一二月一七日右加藤より二八四万二、〇〇〇円の謝礼を受領して、右会社が銀行から借入をするための導入預金として、同月一九日第三相互銀行上前津支店に預入期間六ケ月の無期名定期預金四口計一、五〇〇万円を、同月二〇日太道相互銀行中市場支店(当時、その後同銀行大津橋支店となりさらに中京相互銀行大津橋支店となる。)に預入期間一ケ年の無記名定期預金二口計五〇〇万円をそれぞれ預入れた。

(二) 昭和三八年分、一四三万五、二〇〇円

原告は、昭和三八年一二月二四日、第三相互銀行上前津支店に前記(一)と同様の目的で一、〇〇〇万円の定期預金を預入れ、前記加藤からその謝礼として一四三万五、二〇〇円を受領した。

(三) 原告の右各収入金はいずれも各収入時の属する年分の雑所得(昭和四〇年法律第二三号による改正前の所得税法第九条第一項第一〇号)の総収入金額に該当するものと認められ、必要経費についてはこれに該当する支出が認められないので、右各収入金額は原告の右各係争年分の申告洩れの雑所得金額である。

二、重加算税の賦課決定について

(一) 被告の係官が昭和四二年八月原告宅に臨場調査し、係争各年分の所得税確定申告の基礎となつた帳簿等の提出を求めたところ、原告は原告および原告家族名義の金銭出納帳を提示し、右帳簿が所得税確定申告の基礎となつた帳簿であり、右帳簿には収益、費用、預金、貸付金等の資金費用の一切が正確に記帳され、右帳簿以外には資金の運用およびそれによる収益の事実は存在しない旨申立てるとともに、前記一の導入預金の預入れの謝礼金の収受についてはその事実なしとして強く否定した。しかも原告は、右導入預金の預入れに当つては、これらの全部を無記名預金とすることにより、税務署職員が取引銀行の調査を行つても容易に預金取引の事実が判明しないように運用操作していた。

(二) 以上のとおり、原告は右導入預金の預入れの謝礼等を収受していながら、それを隠蔽しかつ仮装し、その隠蔽しかつ仮装したところに基づいて所得税確定申告書を提出したものである。

(被告の主張に対する原告の認否)

被告の主張事実は全部否認する。

第三証拠

(原告)

一、甲第一ないし第六号証。

二、証人田中勇次、同小出孝治、同久村誠一、同小林久夫、同横地良三、同脇田重平、原告本人。

三、乙第一、第二号証、第六、第九、第一〇号証の各成立を認める。乙第四号証の一ないし四、第八号証の一、二、第一三号証についていずれも原本の存在と成立を認める。第七号証の一、二、第一一号証についていずれも原本の存在と銀行作成部分の成立を認め裏面領収欄のお届印の押捺および印影を否認。第三号証の一ないし五の各成立は不知。第五号証の一ないし四、第一二号証の各成立を否認。

(被告)

一、乙第一、第二号証、第二号証の一ないし五、第四、第五号証の各一ないし四、第六号証、第七、第八号証の各一、二、第九ないし第一三号証。

二、証人古儀道夫、同小林久夫、同大須賀俊彦、同小柳津一成。

三、甲号証の各成立を認める。

理由

一、請求原因事実は全部当事者間に争いがない。

二、被告の主張一について

(一)  原本の存在と成立に争いの乙第四号証の一ないし四、証人小林久夫の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第五号証の一ない四、原本の存在と銀行作成部分の成立につき当事者間に争いがなく裏面領収欄については証人大須賀俊彦の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証の一、二、原本の存在と成立に争いのない乙第八号証の一、二、原本の存在と銀行作成部分の成立につき当事者間に争いがなく裏面領収欄については証人小柳津一成の証言により真正に成立したものと認められる乙第一一号証、証人小柳津一成の証言により真正に成立したものと認められる乙第一二号証、証人小林久夫、同小柳津一成の各証言を綜合すると、(A)昭和三七年一二月一九日に第三相互銀行上前津支店に預入期間六ケ月の無記名定期預金三口計一、〇〇〇万円が、(B)同年二〇日に同銀行同支店に預入期間六ケ月の無記名定期預金五〇〇万円が、(C)同じく同月三〇日に太道相互銀行中市場支店(当時)に預入期間一年の無記名定期預金二口計五〇〇万円が、(D)同三八年一二月二四日に第三相互銀行上前津支店に預入期間六ケ月の無記名定期預金一、〇〇〇万円が各預け入られており、しかも、右七口の無記名定期預金の届出印鑑はいずれも同一である事実が認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。また、成立に争いのない2第六、第九、第一〇号証、証人小出孝治、同小林久夫、同小柳津一成、同久村久夫の各証言を綜合すれば、無記名(A)、(B)、(C)の各無記名定期預金は、原告が加茂免自動車株式会社代表取締役加藤政幸(当時)の要請により同社が前記各銀行から借入れをするための導入預金ないしは協力預金として預け入れたものであり、そして、右会社はそのころ第三相互銀行上前津支店から一、〇〇〇万円の、太道相互銀行中市場支店から五〇〇万円の各融資を受けている事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信せず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上に認定した事実と証人古儀道夫の証言に照らせば、同証人の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第三号証の一ないし五は信用できるものであり、この乙第三号証の一ないし五と成立に争いのない乙第一、第二号証(但し後記認定に反する部分は採用しない。)とによると、原告は、(1)昭和三七年三月五日、加茂免自動車株式会社代表取締役加藤政幸に対して二〇〇万円を貸付けての利息(二ケ月分)等として一六万五、三四〇円を、(2)同年一二月一七日および二〇日、右会社が銀行から借入れするための導入預金ないしは協力預金として、右加藤から前記(一)(A)、(B)、(C)の各定期預金の預入れの依頼を受けた謝礼として合計二八四万二、〇〇〇円を、(3)同三八一二月二四日、前記(2)と同様にして前記(一)(D)の定期預金の預入れの依頼を受けた謝礼として一四三万五、二〇〇円をそれぞれ右加藤から受領した事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信せず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  そして、原告の右各収入金額はいずれも各収入時の属する年分の雑所得の総収入金額に該当するものであり、これに対する必要経費は認められない。よつて、右各収入金額は原告の右各係争年分の申告洩れ雑所得金額である。

三、被告の主張二について

(一)  前記二で認定した事実に原本の存在と成立に争いのない乙第一三号証および証人小林久夫の証言を綜合すれば、被告の主張二(一)の事実を認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信せず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  右認定の事実と前記一の当事者間に争いのない事実とによれば、原告は前記二で認定した導入預金の預入れの謝礼等を収受していながら、それを隠蔽しかつ仮装し、その隠蔽しかつ仮装したところに基づいて本件各所得税の確定申告書を提出したものというべきである。よつて、本件各重加算税の賦課決定はいずれも課税要件を充足している。

四、結論

以上の次第であるから、被告の主張一、二はいずれも正当であり、本件各処分(但し昭和三八年分については裁決により一部取消された後のもの)に原告指摘の違法性は存しないから、本訴請求は理由のないものとしてこれを棄却し、訴訟費用は敗訴当事者の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 越川純吉 裁判官 丸尾武良 裁判官 三宅俊一郎)

〈省略〉

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